日々のあれこれ時々、地盤塾。

地盤塾主宰者の千葉由美子が、日々の中で良いと思ったことや気付いたこと、地盤塾の様子などを綴っています。どんなことに気を留めて、どんなことを考えているのか、知ってもらえたら嬉しいです。

宅地の地盤改良工事(地盤補強工事)について ーダメな工法はあるの?ー

 宅地地盤の専門家です、というとよく聞かれるのが

「ダメな(改良)工法ってなんですか?!」

 です。

 

 たぶん「●●工法はダメです」「▲▲工法は最悪です」「◆◆工法は選んじゃだめです」という答えを期待されているのだろうと思います。が、私の答えはいつも決まっています。

 

「ダメな工法はありません。ダメなのは採用(選択)の仕方です!!」

 

 宅地の地盤補強工法に万能なものはありません、ともよく言います。今回はそこに触れます。

 

 その前に・・・よく聞く「地盤改良」と「地盤補強」ですが、このふたつは同じ意味ではありません。

 地盤補強工事は「住宅が沈下しないことを目的に行われる工事のこと」で、地盤改良工事はその中の一種です。地盤改良工事を簡単にイメージで言うと、セメントなどを土と混ぜて地盤を強くする工事のことです。表層改良や柱状改良は地盤改良工事と言いますが、小口径鋼管杭は土と混ぜて地盤を強くしているわけではないので改良工事とは言いません。

 

 さて、まず「地盤補強に万能なものはない」について説明していきます。

 

 通常、鉄骨造やRC造の大きく重い建物を支えるためには基本的に非常に固い層まで杭を打ち込み、その反力で建物を支えます。基礎に杭を飲み込ませる「杭基礎」と呼ばれるものです。

 しかし、住宅はそのような大規模建築物と比べれば重さは軽い(住宅に「軽い」と表現するのは嫌いですが)ので、必ずしも杭を打ち込み反力で支える必要はありません。比較的軽い木造住宅を支えられるように少しだけ地盤を強くしてあげればよい、というイメージです。それが地盤補強です。「適宜深度まで補強することで十分」という考え方です。

 

 地盤を少し強くしてあげることが目的なので、強くする方法は様々です。ある程度固い層まで補強する、たくさん杭(補強体)を入れて地盤の密度を高める、土の代わりに軽いものを入れて軟弱地盤への負担を軽くする、など。本当に様々ですが、結局「どの深度までどのような方法で補強するか」が各工法のテーマ、のようなものです。

 

 そのため、目的も方法もシンプルな杭(非常に固い層まで杭を打ち込む)と違い、地盤補強は「適宜深度まで補強」が目的で方法が複数あるがゆえに、どの補強工法にも「向く地盤・向かない地盤」が存在します。

 性能証明や大臣認定を取得している地盤補強工法はしかるべき機関で認められた工法ですので、「向く地盤」で施工することは何の問題もありません(性能証明・大臣認定を取得しているか要確認)。向く地盤のことを「適合地盤」と呼びます。

 

 そして、向かない地盤のことを「不適合地盤」と呼びます。

 

 例えば、セメントと土を混ぜる柱状改良工法は腐植土に注意(対応セメントを使う・添加量を上げる・採用しない、などの対策が必要)、傾斜地盤や擁壁宅地はシートや発泡スチロールなどの置換工法は厳禁、砕石工法は新しい盛土や腐植土が出る地盤は使えない(腐植土が不適合地盤の工法は結構あります)、あとは工法によって補強深度の限界がある、などです。

 

 そして、「不適合地盤」であるにもかかわらず採用すると、補強体(改良体)が性能を発揮できず、補強体(改良体)ごと住宅が沈下します。

 

 みなさんが思う「ダメな工法」とは、この「不適合地盤で採用され、沈下事故を起こした工法」、そしてその例があまりにも多い工法のことです。

 

 しかし、それは工法が悪いのではないのです。不適合地盤で採用されたことが悪いのです。

 これが「ダメな採用(選択)の仕方」の理由です。

 

 不適合地盤かどうか、プロである地盤会社ならば判断がつくはずです。一般的で低コストの工法(例えば柱状改良)が不適合である場合は適合する工法(例えば小口径鋼管杭や適合する認定工法)を提案してきます。

 その一方、判断できない地盤会社もいます。地盤や土を見分け、危険性を判断できない地盤会社はプロではありません。

 しかし、地盤会社は危険性を見分けられていても不適合な工法が選ばれてしまう現実があります。

 

 事業者が、いずれの地盤補強工法にも不適合地盤が存在することを知らずに(あるいは知っていても)見積金額だけで工法を選んでしまう場合、です。

 

 プロでない地盤会社(地盤会社と呼びたくないですが便宜上・・)は金額だけで選ばれることを知っていて、危険性は二の次で、とにかく受注するために適合・不適合は関係なく安い工法を提案してきます。

 

 それに騙されてはいけません。

 

 「補強工法のダメな採用(選択)」をしないために、

 

 ①地盤補強工法には「向く地盤・向かない地盤」がある。

 ②金額ではなく、その地盤に向く補強工法を選択する。

 

 ということを覚えておいて下さい。

 

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Twitterのリツイート効力

8月に入り、今更ですがTwitterを始めました。こちらでもほぼ地盤のことばかり呟いております。

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初っ端は山形沖地震の直後だったので、地震による地盤の揺れを前もって調べる方法を呟きました。

 

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そのあと、液状化についても呟きました。

 

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まだまだフォロワーも40人ちょっとと少ない状態ですが、「#=ハッシュタグ」をつけながら恐る恐る呟いているとまあまあ反応してもらっていて、特にリツイートの拡散力というのを感じました。

 

私としては、もっともっとユーザーの方に「地形・地盤」について興味を持ってもらいたい!という想いで始めたTwitterなので、反応があるととても嬉しいです!

 

そんな中、いまのところ一番多く反応をもらった呟きがこちらです。フォロワーよりも「いいね」の数が多くてびっくりしました!リツイート効力、すごいですね!

さて、どんなことに興味を持ってもらったのか・・。

 

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やはり、一生の財産というイメージがあり、家を建てる際の足元(土地・地盤)には、強い関心があるんだなと実感しました。

 

ところで。

地形で地盤の良し悪しがある程度決まりますが、「地名」でも良し悪しがある程度分かるということをご存知でしょうか?

様々な団体が一覧表を作成されていて、私たち建築関係の従事者のバイブルである「小規模建築物基礎設計指針」にもズラ~~~ッと地名が並ぶ表がありますが、簡潔なものを見つけたのでこちらをアップします。

 

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これは本当に一部です。

表の中を見ると、沢とか池とか葦とか、なんとなく軟弱そうなイメージの文字が並んでいます。なぜ軟弱かというと、それらの共通点は「水が集まるところ」だからです。田とか窪とか谷もそうです。

新しい造成地だと、それらのところに土を持ってきて盛土・整地しているところもあります。そういったところ、軟弱地への盛土は地盤が揺れやすく、軟弱で、液状化のリスクも高まります。しかし、新しく作ったタウンはイメージを良くしたいので名前に谷とか窪とか使いません。ではどうやって見極めるかというと、旧版地形図です。旧版地形図なら、造成前の地名が載っています

 

新しい造成地の土地を購入候補に入れる場合、旧版地形図で元の地名を調べることもリスク対策に有効です。

ぜひ調べてみてください!

 

※地盤塾では、地形図の探し方・使い方などをレクチャーしています!(宣伝)

 

地盤調査方法について ー法的・指針的なものー

地盤塾は宅地地盤の相談にも乗っています。通常は具体的な案件がほとんどなので公に紹介できませんが、今回の質問は広く知って頂きたいことだと思ったので紹介することにしました。

 

【質問内容】

「地盤調査方法について、何か定められているものはありますか?」

 

地盤調査方法について法的・指針的なものがあるのか、という問いです。確かに、住宅建築従事者の方たちはなんとなく「木造はSWS(スウェーデン式サウンディング)試験」で「S造・RC造はボーリング(標準貫入試験)」というイメージを持たれているかと思います。

では「なんとなく」のその根拠は?ということで、法的・指針的なものがあるか見ていきます。

 

実は、国土交通省告示第1113号で地盤調査について定められています。
「告示1113号」の内容については、インターネットで「告示1113号」と検索すると確認できます。参考に、告示1113号が全て書かれて分かりやすく表示されている研究室のURLを添付します。

http://geotech.ocean.cst.nihon-u.ac.jp/ips/hourei/kokuji/1113.html

第1項を見ると、地盤の許容応力度・基礎杭の許容応力度、つまり地盤の強さの判断・杭の設計のための地盤調査方法は10種類と指定されています。

 

1)ボーリング調査

2)標準貫入試験

3)静的貫入試験

4)ベーン試験

5)土質試験

6)物理探査

7)平板載荷試験

8)載荷試験

9)くい打ち試験

10)引抜き試験


SWS試験は「3)静的貫入試験」の中に含まれます。表面波探査試験は「6)物理探査試験」に含まれます。
(しつこいですが・・第1項の目的に「地盤の揺れ具合」は含まれていません。これを見ても「揺れの調査と地盤の強さを調べる調査は別物」ということが分かるかと思います)

第2項では、地盤の強さを判断するための、地盤の許容応力度を求める式が記されています。第2項を添付します。

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簡単に言うと、

(1)は標準貫入試験で求められた数値を使って出す式

(2)は平板載荷試験で求められた数値を使って出す式

(3)はSWS試験で求められた数値を使って出す式

となります。許容応力度を算出するためにはこれらの式を使うこととなり、これらの式を使うためには所定の地盤調査を行う必要がある、もしくは換算値が必要ということになります(換算の換算、というやり方もありますが、その分誤差が大きくなるのであまり勧められるやり方ではありません)。
ちなみに、第2項の文中に出てくる「建設省告示第1347号第2に定める構造計算」では、地盤調査の判定結果を踏まえた基礎設計(直接基礎・地盤補強+直接基礎・基礎杭)について書かれています。

ただし、「この構造にはこの試験」という決まりは特に書かれていません。

しかし、第2項の一番下にNswについて「SWSにおける1mあたりの半回転数(150を超える場合は150とする)の平均値」という記載があり、これ(1mあたりの半回転数≦150)がSWS試験の限界値であることがわかります。

私たちがよく言うのですが、SWS試験は「弱いかどうかを確かめる試験」なので、あまり固い地盤は調べることができません。それでも、Nsw=150で許容応力度を算出すると120kN/㎡になります。かなり重い建物にも対応できそうですが、確認申請機関からは、S造・RC造の建物や基礎の接地圧が50kN/㎡を超える建物は標準貫入試験での算出が求められるようです。また、SWS試験は適用深度が10m程度なので、S造やRC造の地盤補強や杭基礎のための支持層確認ができないことがあります。標準貫入試験の適用深度は60mくらいと言われています。
ということで、建築従事者の方たちの「漠然と木造はSWS、S造・RC造はボーリング」という感覚はだいたい合っている、ということになります。

ただ、木造でも基礎の接地圧が30kN/㎡を超える場合は、地盤調査会社にその旨を伝えて調査計画を立てるのが理想的です。
例えば、関東ローム層(もしくは砂岩・土丹など)が出そうならSWS試験プラス土質確認とか、地盤が悪そうで補強が必須のようであれば補強の設計で必要になりそうな土層・支持層を確認するとか、建物の重さ次第で確かめたいことが変わってくることがあります。

 

最後に、「ではやはりSWS試験は使えないのか」という声が上がりそうですが、SWS試験のメリットはきちんとあります。

小規模建築物基礎設計指針でもあるように不同沈下事故の原因の79%が宅地造成に起因していて、このリスクを見極めるためには建物下の地盤のバランスの良し悪しを調べることが重要となります。具体的には、山側と谷側、一部埋め戻し、軟弱層や支持層の傾斜などで、これらを確認するには調査箇所を多く取り、建物の端と端・中央と端のバランスを見ることがとても有効です。そのためSWS試験では「建物四隅と中央」を行うことが一般的なのです。

 

普段何気なく地盤会社に依頼している「地盤調査」は、このように定められているところに沿って行われているものなのです。

新しい調査方法を採用する場合、その調査は「何を調べられるのか」「どんな数値が取れるのか」を確認することが重要です。

住宅のトラブル相談 年間件数と不具合の傾向

 いま新しい講座用の資料を作成中で、いろいろな情報を拾っています。その中で一部を紹介です。「公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター」さんの資料です。センターが一年間で受けた相談件数やトラブルの内容について知ることができるものです。
 
 こちらは住宅のトラブル相談が年間どれくらいあるか、という資料です。

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トラブルに関する相談件数の推移
 2009年以降、トラブル相談は急激に増えています。住宅瑕疵担保履行法がスタートした年ですね。でも、その前年からじわじわ増えてきてる印象です。
 家の不具合は、竣工後1年から3年の間に出現することが多いようです。それを考えると、2005年あたり以降に建てられた建物のトラブル相談が増えている、ということになりそうです。
2005年あたりは、いわゆる姉歯事件が世間を震撼させた頃ですよね。この事件によって、ユーザーが家の不具合に敏感になったのかもしれません。
 
 では、必要以上に敏感になっていてとりあえず相談しただけで、実際不具合なかったんじゃないか?と思いたいところで、こちらのグラフです。2017年度に受けた相談件数の内、不具合の有無をグラフ化されています。

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不具合の有無(新築等相談)

 残念なことに、相談件数の約80%で不具合が見つかりました。件数にして約1万件。相当な数です。今度は、どんな不具合があったのか、不具合の事象を見てみます。

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不具合事象と主な不具合部位


 ひび割れが一番多く、次いで雨漏り。三番目の性能不足は、お施主様にとっては詐欺のようにも感じられるのではないでしょうか。

 

 ところで。

 私の専門は宅地地盤です。今回、これらの資料を紹介した理由に「地盤が原因と思われる不具合はどれくらいあるのか知ってもらう」という目的があります。そこで、再度「不具合事象と主な不具合部位」の表を見てもらいたいです。

 ぱっとみて地盤が原因と思われるものは「沈下」ですよね。割合は2%、件数は159件。けっこうありますよね。さらに見ていくと、怪しいのは「傾斜」です。事象が見られる部位は床。床の不陸、施工の瑕疵ということもあるかもしれませんが、「建具がしまらない」などの報告で原因調査をすると、地盤が原因で家が不同沈下を起こしたことが起因となっていることが多いです。こちらの割合は4.7%、件数は363件。他はどうでしょうか?

 

 実は、割合が一番多い「ひび割れ」にも地盤が原因である不具合が潜んでいると考えられます。

 

 事象が見られる部位を見ると、外壁の他に基礎にも見られているとなっています。基礎も施工の瑕疵、ということもあると思います。また、経年劣化については、不具合の発覚が竣工後1年から3年が多いとすれば、経年劣化はありえません。「建具がしまらない」「傾いているようだ」などの報告を受け、地盤が原因で変形傾斜を起こしている住宅には基礎に亀裂が見られることが多くあります。これは恐ろしいことですよね。基礎が割れていると一部に負荷がかかり、建物の構造にも大きな影響を及ぼしかねません。

 21.6%、1676件すべてが地盤が影響ではないはずなので、本来はその細かい内訳も知りたいところではありますが。

 

 しかし、ではその内訳が少なければ良いのか?違いますよね。

 

 実際に、年間でこれだけの事故が起きているということは、きちんとした検討・判断がされていない物件がある、ということです。更に言うと、実は地盤の事故の原因は毎年似たようなものなのです。早々新しい原因の沈下事故は起きません。沈下事故を起こしやすいパターンがあるのです。そのパターンがあるのに毎年同じような原因の事故が起こるのは、きちんとした判断がされていないと言い切っても過言ではありません。

 そして、きちんと検討・判断がされないために、これだけの事故が起きているのです。

 地盤だけではありません。上部構造・設備・性能にも不具合事象がこれだけ起きています。これは一団体が相談を受けた件数なので、実際の不具合はもっと起きていると思われます。事故が起きるからやりましょう、というのはネガティブな考え方ですね。

 

ユーザーに安全で快適な住宅を提供するために、

地盤・構造・設備・性能、きちんと検討していきましょう!

現場で土質確認 関東ローム層が出るか③完結編

前回の②では、今回行う土質確認の目的について書きました。

https://jibanjyuku.hatenablog.com/entry/2019/04/19/200752

簡単にまとめると、

①判定結果はローム層が出ることを理由に補強不要だが、ローム層とは思えない。

(SWS試験の数値が異様に弱く、近隣ボーリングデータのN値と比較してもロームとは思えない)

②人の手が加わっている可能性がある。

(もともとロームが堆積しているはずのところにロームがないとすると、人の手が加わって掘り返されている可能性がある)

③人の手が加わっているなら、何が入っているのか確かめる必要がある。

(人の手が加わっていると、埋め戻しの土の状態によっては不同沈下事故に繋がりかねないので、判定の妥当性と補強工法の選択のためにも土の状態を確認する必要がある)

ということでした。関東ローム層が確認できなければ判定結果が変わる可能性がある、という点も重要ポイントです。

それを踏まえて、今回は現場での手順・判定・地盤調査の総合結果について書きます。

 

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現場でやることはただひとつ、「土を見て関東ローム層の有無を確認する」だけです。

 土質確認のために現場でやることは、土そのものを取り出すか、地盤の断面を見られるように深い穴を掘る、です。土を取り出すというとボーリング調査をイメージする方が多いと思いますが、戸建て住宅の検討で土を取り出す方法はいろいろあります。

 

土の採取方法の紹介は下記の記事を参考にしてください(^^)

 https://jibanjyuku.hatenablog.com/entry/2019/05/31/143029

(最後、一回でまとまらなかった・・・)

 

 

 

というわけで(採取方法の紹介の記事を読んでもらったこと前提で進んでいます)、土質確認をする上で一番シンプル・確実なのがこの方法、

「重機で地面を掘り起こし、地盤の断面を目視する」です。

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今回の現場ではこの方法で土質確認をしました!

 

この方法で何がいいかと言うと、地層の境目を目視できることです。早速、断面を見ていきます。

 

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 まず結果として、関東ローム層はありませんでした関東ローム層はよく「赤土」と言われるように、特徴的な赤茶色をしていて一目で分かります。しかし、この断面の色は暗褐色と呼ばれる色で、赤茶色はどこにも見当たりません。更に、地表面から水位(灰色の水面)の少し上までいろんな色が不均一(マーブル状)に混じっているのが分かると思います。自然に水平堆積しているなら、ありえない断面です。これは「盛土」です。人の手が加わっています。

その一方、水面のすぐ上に黄色い層が一直線に揃っているように見えます。ロームはありませんでしたが、乱されていないと思われる層が見えてきました。黄色い層が出てくる深度を測ってみると地表面から約1.5mの深さでした。

 

もう一箇所の断面を見てみます。

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こちらも地表面からある深さまではいろんな色が不均一に混じっています。ですが、やはり真横に一直線に揃っている層、つまり乱されていないと思われる層が出てきました。その境目付近にオレンジの線を引きました。「いやまだマーブル状だよ」と思われるかもしれませんが、そう見えるのは重機のバケットの爪が上の土を引っ張ってしまったものが付着しているだけです。そうやって見ると、オレンジのラインの上部にある色の土が引っかかれたように下の黄色い層に続いてかすれているのが分かると思います。・・・これを見分けるのは、現場を見慣れていないと少し難しいかなと思います(^^;)

オレンジのラインの深さを測ってみると、こちらもだいたい1.5mの深さでした。

 

ということで、少なくとも地表面からー1.5mの深さまでは、ローム層ではなく人の手が加わった盛土であることが判明しました。

この段階で、関東ローム層が分布する地域だから地盤補強はいらない」という判定が成り立たないことになります。


実はもっと分かりやすい判別材料もありました。ポカリスエットのラベルが埋まっていたのです。関東ローム層に限らず自然の地盤は土が何万年も堆積・圧縮されてできた層です。人工物が埋まっていることが確認できた段階で乱された層と決定です。

あとは人の手が加わった層がどの深さまで続いているのかを確認します。


今のは色の混ざりで乱されていると判断しましたが、ブロックを形成できているかどうかもチェックポイントです。今回の計画地は台地で洪積地盤のはずなので、ブロックが形成できていると乱されていない自然体積した地盤と判断することができます。

この方法で1.5mの深さから見られる黄色い層が本当に乱されていないかどうかを確認します。

 

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左:色が入り乱れている  右:大きなブロックの色が均一

こちらの写真は、重機で掘り出したものです。左は様々な色が入り乱れ、更に塊を形成できていません。右は写真中央の大きな塊は色が均一な黄色(1.5m以深で見られた黄色の層と同じ色)です。大きな塊が形成されていることが確認できました。これによって、1.5m付近の深さに見られる黄色い層は、やはり乱されていない層ということがわかりました。

  

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次は手に取って確認した写真です。左の写真はボロボロでブロックを形成できていません。水分もなくパサついていました。中央はブロックと乱されているところの境目です。ブロックが形成されているものの一面に黒土が見えます。色の違い、ここが境目です。右はブロックが形成されている状態です。黒い粒は土層の中で炭化したもので、乱されたものではありません。そして、この黄色い乱されていない層は「火山灰質粘性土」つまり「凝灰質土」と判定されました(火山灰質粘性土についてはまた別の機会に説明します)。

 

あと、写真がうまく取れていなかったのですが、実は盛土の層と火山灰質粘性土の層の間にきれいな(生き生きとした)草の芽がいくつか見られたことも決定打でした。敷地履歴を確認すると芝生を栽培していたようです。芝生を栽培し、土と一緒に切り出して売る、ということを繰り返していたとのことでした。

これで、1.5mの深さまで人の手が加わっていた理由も判明しました。

 

ということで、今回の土質確認で以下のことがわかりました。

1)地表面から-1.5mまでは盛土(ロームはなかった)

2)1.5m以深は火山灰質粘性土(乱されているのは1.5mまで)

 

これから導き出されることは、

SWS試験で表層からGL-1.5m付近で見られる軟弱な数値の自沈層は、土質確認により盛土であることが確認できたため、地盤補強が必要」ということです。

 

私たちは予測できていましたが、やはり相談者さんにとってはがっかりしたことと思います。ですが、もうひとつの確認では最悪の事態にはなっていなかったことを確認できました。

もうひとつの確認目的である、「ローム層でなかったとしたら土質は何か」です。

 

もし大量のゴミ・瓦礫や腐植土が存在していたら補強工法の選定や設計に大きな影響を及ぼします。

1)ゴミが入っていたらすべて取り除き新しい土を入れた上で地盤改良をする。

2)ゴミが取り切れないなら小口径鋼管杭を支持層まで入れる。

3)腐植土が出たら小口径鋼管杭か対応できる認定工法を選択する、または柱状改良をするなら腐植土対応セメントを使う・添加量を上げる。

など。また、地盤状態によっては選択することすらできない工法もあります(不適合地盤という、やってはいけない地盤状態というものが各工法にはあります)。

 

ですが、今回は大量のゴミ・瓦礫はなく(少量は混じっていましたが施工を妨げるものや量ではなかったので)、腐植土も分布していませんでしたので、予定通りの補強工法が使えることが分かりました。

 

もし土を見ていなかったら、ロームとは思えない軟弱な数値を目にして

「変なゴミが入っていたらどうしよう」

「腐植土だったらどうしよう」

ということで、安全側で地盤補強をするために過剰な補強計画になっていたかもしれません。

 

もう一度まとめますが

①関東ロームはなかったので地盤補強が必要。

②盛土だったが変な土は見られなかったので予定通りの補強工法が使える。

ということが今回の土質確認の成果でした。

 

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土質確認の作業としては単純に「土を見る・判別する」ですが、

1)判別に求められる高い正確性

2)導き出される判定結果の利用範囲の広さ

3)なにより実際に土を見ることで得られる確実性と安心感

についてお判りいただけたでしょうか。

 

間違っても「ロームって言いきればいいんでしょ!」などと言って安直に土質を決定してはいけません。また、せっかく土質が判別したにも関わらず土の特性を知らないがためにうまく活用できなかったとしたら非常に残念です。

 

大事なことは、何のためにその調査をするのか目的をはっきりさせ、それに沿った調査方法を選ぶことです。

 

 

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現場で土質確認 番外編 土の採取方法について

「現場で土質確認 関東ローム層が出るか③完結編」の前に・・・

宅地地盤における土の採取方法を紹介します。

 

土を採取する目的は「どんな土なのかを確認する」ことです。まず、現場に入る前にどんな土が出そうか近隣ボーリングデータで出そうな土の種類の当たりをつけます。そして、どんな土が出たらどういう結論が導き出されるのかを想定します。やみくもに現場に入って土をとっても、結果を活かせず調査費用が無駄になりかねません。なんでもそうですが、地盤調査を行う場合は目的をはっきりさせ、その目的に合った調査方法を選択することが重要です。

 

土を確認するとはもう少し具体的に言うと、粘性土か、砂か。関東ローム層などの特殊土が存在するか。はたまた人の手が加わった盛土ではないか。もっと言うと、瓦礫やゴミなどの産業廃棄物が埋まっていないか。それから、補強工事に大きな影響を及ぼす腐植土が出るか。などです。

土を確認して何が分かるかというと、「土の特性による地盤の硬い・軟らかい(地盤判定に直結する)」や、「地盤に潜むリスク」です。地盤に潜むリスクは「液状化」や「腐植土や盛土による不同沈下事故と補強工事の施工方法」がメインです。他には、擁壁計算のための土質決定というのもあります。

 

 

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それでは、採取方法を紹介します。宅地地盤における採取方法なので、基本調査はスウェーデン式サウンディング試験です。それにプラスして行うものが主流となります。

 

まず「ハンドオーガーボーリング」その名の通り人の手で土を掘りだします。写真左側にT字にハンドルがついたロッド(棒)がありますが、このハンドルを回転させてロッドの先につけたオーガーと呼ばれる採取器具を土の中に貫入させていきます。貫入させるときにオーガーの中に土が入ったり付着するので、それを引き上げて土を取り出します。砂混じりの粘性土、粘性土混じりの砂質土など軟らかめの時は左のポストホールを使い、比較的硬い土や関東ロームなどなるべく乱したくない場合は右のスクリューを使います。

オーガーが大きめなので土をしっかり取れますが、人力なので貫入力には限界があります。土の固さにもよりますが大体2~3mが限界です。

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NPO住宅地盤品質協会 「簡易なサンプリング方法(案)」より

 

次は「スウェーデン式サウンディング試験の試験孔を利用したサンプリング」です。これはハンドオーガーに比べて径が小さいので比較的労力を使わずに採取できます。写真左側はSWS試験でできた孔の壁をこそげ取ります。孔壁が自立していることが条件ですが、砂質土・粘性土・腐植土などが採取できます。写真右側のスクリュータイプはSWS試験の自動機械のロッドの先に取り付けられ、自動機械の回転能力を使って貫入・採取するものです(もちろん人力でもよいですが)。写真左に比べるとスクリュータイプは連続して土を確認できるので、確認したい土の出る深度の境目が分かりやすいというメリットがあります。弱点は、緩い砂や水位が高いところなど粘性が低くスクリューに付着しないものは適していないことです。

どちらも採取深度は5m程度までです。比較的簡単な採取方法ですが径が小さい分、採取量が少ない・他の深度の土が混じりやすいなどのデメリットがあります。ローム層の他、砂質土確認液状化簡易判定目的)や腐植土確認(地盤判定・補強工法の選定や設計目的)などによく使われています。

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NPO住宅地盤品質協会 「簡易なサンプリング方法(案)」より

 

これらの方法は特殊な器具が必要なので地盤会社に依頼することになります。

 

それに対して、特殊な器具なしで確認できる方法もあります。それがこちらです。「ブロックサンプリング」です。

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北海道大学 地盤物性学研究室HPより

 

この方法の最大の特徴は「乱さない試料(土)を取れること」です。先に紹介した方法だと、掘ったりこそげ取ったりねじったりしたときに元の地盤があらかた崩されてしまいます。それに対してこの方法だと、まず取り出したい土の大きさを決め、その大きさを成形するために周辺の土を掻き出し、下部を切り離してブロックごと持ち上げるので、ブロックの内部は乱されないまま(土層をそのままの形で)土を取ることができるのです。

これに必要な道具は、基本的にはスコップのみです。JIS規格の方法では圧縮試験に利用するため試料の変形・変質を防ぐ目的で枠をはめますが、とりあえず今回のように「土質確認」のみであれば、掻き出すだけで十分です。

道具はスコップのみ、作業は掘り出すだけなので、土質確認者が立ち合えない場合に現場でこの方法で土を持ち帰る、というような使い方ができます。

ただデメリットは・・・人力なので確認したい土の深度が深い場合は困難であること、確認したい土の深度があまりにも深い場合は重機が必要になること、です。

 

そして、土質確認をする上で一番シンプル・確実なのがこの方法、

「重機で地面を掘り起こし、地盤の断面を目視する」です。この方法で何がいいかと言うと、なんと言っても地層の境目を目視できることなのです。

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関東ローム層の確認が目的だった現場ではこの方法で土質確認をしました!

 どんな風に判断したのか、「現場で土質確認 関東ローム層が出るか③完結編」も読んでもらえると嬉しいです(^^)

 

 

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現場で土質確認 関東ローム層が出るか②

前回の「現場で土質確認 関東ローム層が出るか①」で、現場で土質確認をする意味と注意点を建築基準法施行令第93条を基に書きましたが、

https://jibanjyuku.hatenablog.com/entry/2019/04/16/125038

今回は、それらを踏まえて現場での土質確認の事前準備について書きます。

通常はあまりやらない現場でのローム層確認。なぜ現場に出向くことになったのか、経緯と資料となる調査データやボーリングデータから説明をします。

 

少し長いですが、ローム層確認の醍醐味が分かりますのでがんばってついてきてください!

 

 

スタートは、知り合いの工務店さんを通して設計士さんから「地盤補強の工法選択アドバイス」のご依頼を頂いたことでした。

SWS(スウェーデン式サウンディング)試験の結果は「台地で関東ローム層が分布している」ことを理由に「直接基礎判定(地盤補強不要)」でした。しかし「試験数値があまりにも弱いので念のため地盤補強をしたいが、候補の補強工法が適切かアドバイスが欲しい」というご依頼でした。

ご依頼主は地盤補強の基本的な知識(工法理論等)をお持ちで、建物計画・地盤調査結果・敷地利用計画に沿って「採用に適していると思われる工法の候補」を複数選定しており、私たちはそれらの工法について裏付けになるような工学面と費用感のアドバイスをしました。

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地盤サポート、まずはメールでの質疑応答から

工法理論、地震時の影響、液状化への効果などについてメールでの質疑応答を何度か繰り返すうちに、

「お会いして方針を決定したい」

と要望を頂いたので面談型のコンサルティングへ切り替えます。

 

せっかく双方とも時間をおさえて面談をするので、

現場で地形や土質を確認し、より確実な情報を元に方針を決める

ことにしました。なぜ現場へ出向く必要があるのかを説明するために依頼案件の情報を整理します。

 

1)調査結果は「台地で関東ローム層の分布」を

  理由に「直接基礎」だった

2)SWS試験結果は表層からGL-4m付近まで

  軟弱な数値の自沈層が見られる

3)近隣のボーリングデータと比較すると、

  ボーリングのN値とSWSの換算N値との数値に開きがある。

4)試験数値の低さが不安(なので補強するつもり)。

5)数値が弱い以上、補強不要と判断するためには

  関東ロームの確認が必須。

 

補足説明をすると、まず2)について、SWS試験の調査データの一部がこちらです。

注:物件が特定できないよう、実物とは違うデータシートを使用し、データは判定へ影響せず今回のポイントを逸脱しない範囲で数値や感触を変えています。

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表層からWsw=0.75kN(いわゆる75kg自沈)以下のかなり軟弱な数値の自沈層が続いています。通常、台地で関東ローム層の分布が見込める地盤ではなかなか見ない数値です。そこで、判定の通り関東ローム層の分布が見込める台地なのかを地形図で確認したところ、調査地(計画地)の地形は確かに台地でした(場所が特定されてしまうので地形図は出せないことをご了承ください)

 

次に、そもそも関東ローム層が分布する地域なのかを近隣ボーリングデータで確認しました。こちらも確かに、近隣ボーリングデータでは関東ローム層の分布が確認されていました。

 

ですが、問題はボーリングデータのN値とSWS試験の換算N値数値の開き

です。それが、3)の説明です。近隣ボーリングデータがこちらです。

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こちらも場所が特定できないようにデータの一部のみ貼り付けていますが、N値の折れ線グラフを見るとN値は5前後から10までの間を推移しているのが分かります。ボーリングデータのN値とSWS試験の換算N値はある程度相関性があると言われています。とすると、このボーリングデータとSWS試験データを比較したときに数値に開きがあると言わざるを得ません

何が問題かというと、数値に開きがあるということは

ローム層とは違うものの分布が疑われる

ということなのです。

 

こうなってくると、未確定のまま「ローム層の分布が見込めるから」といって直接基礎で進むのは当然疑問が残り、4)の懸念に繋がります。そこで、

未確定なら確定させればよい

のが、5)の関東ローム層の確認、というわけです。

 

 

ということで、今回の現場で土質を確認する一番の目的は

①表層からGL-2mまでの異様に弱い層はローム層か否か

です。

 

ローム層であれば数値に関係なく直接基礎

で大丈夫です。しかし、

ローム層でなかった場合は数値により地盤補強が必要

となります。この差が大きいことはお分かりだと思いますが、つまり

 

ローム層の有無で調査結果が変わる

 

ということなのです。また、

ローム層でなかったとしたら土質は何か

も重要です。ゴミや腐植土は不同沈下の原因に繋がります。補強工法の選定にも影響してきます。なぜなら、地盤補強工法は様々な種類がありますが、どれも地盤や土質の向き・不向きがあるからです。

 

現場で行うことはシンプルです。「土質を確認する」それだけです。しかし、その目的は判定の妥当性補強工法の選定に関わる重要なものなのです。

したがって、

 

安易に土質を決定することは許されません。

 

また、そもそも論として関東ローム層の分布が見込める地域」でないとローム層の確認をする必要性があまりないことも理解しておかなければなりません。

 

例えば、明らかに川沿いの低地で近隣ボーリングデータでもローム層の分布は確認されないのに「関東ローム層が出れば直接基礎だ!」と期待(?)してローム層確認をすることは費用がかさむだけでナンセンスです。

その点でも、数値が異様に低いものの台地に位置し近隣ボーリングデータでローム層の分布が確認されていることから、今回はローム層の確認を行う意味があるのです。

 

前置きが長くなる理由、お分かりいただけたでしょうか。

 

次回(こそ)、現場での実際の確認作業について書きます。

 

 

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