日々のあれこれ時々、地盤塾。

地盤塾主宰者の千葉由美子が、日々の中で良いと思ったことや気付いたこと、地盤塾の様子などを綴っています。どんなことに気を留めて、どんなことを考えているのか、知ってもらえたら嬉しいです。

現場で土質確認 関東ローム層が出るか①

先日現場で関東ローム層の分布の有無を確認してきました。

ローム層の確認について、確認する理由・確認方法・判定結果などを書いていきます。

まず、現場の話の前に「確認する理由」について書きます。

 

地質・地盤屋がこのミッション(タイトル)を見ると緊張感が出ます(たぶん)。なぜなら、

 

1)小規模住宅の地盤判定が変わる可能性がある

2)乱されていないことを慎重に確認する必要がある

 

からです。

これらの理由は「建築基準法施行令93条」の「表に掲げる地盤の許容応力度」から来ています。どういう表かというと、こちらです。

f:id:jibanjyuku:20190415095131p:plain

建築プレミアムより

http://best.life.coocan.jp/k-rei/

 

この表が言っていることは、

「この地盤と確認出来たら、地耐力はこれくらい見込んでもいいよ」

ということです。つまり、「ローム層」が確認出来たら50kN/㎡の地耐力が見込める、ということです。

 

よくあるのは、SWS(スウェーデン式サウンディング)試験ではそれほど強い数値が出ずに「地耐力は30kN/㎡」という地盤判定しか出せないところ、土質確認を行いローム層の分布が認められ、

ローム層が確認できたため地耐力は50kN/㎡」と判断が変わるパターンです。

 

ではなぜ地盤判定が変わるかというと、

SWS(スウェーデン式サウンディング)試験の特性と関東ロームの特徴が絡んでいることが要因です。

 

SWS試験は元々「弱いか弱くないか」を判断する試験です。試験方法は、尖ったネジ状のスクリューポイントを回してねじ込んでいきます。加える力は回す力のみ(静的貫入といいます)なので固い層に当たると突き進むことが困難ですが、その代わり軟弱かどうかの境目を調べることと、たくさん調査箇所を取って建物配置下の地盤のバランスの良し悪しを確認することには適しています。

 

また、ロームは土の構成上、尖ったものに対する抵抗力がそれほど強くありません。例えば、豆腐につまようじを突き立てると大して力を入れなくても深くまで刺さります。

f:id:jibanjyuku:20190415103556p:plain

尖ったものには弱い

ですが、つまようじより重いお皿を載せても崩れることがない

f:id:jibanjyuku:20190415104050p:plain

パナソニック ビストロ電子レンジ科より

ことをイメージしてもらうといいかもしれません(この写真は豆腐をペーパーで覆ってしまっていますが・・)。

ちなみに、豆腐(地盤)がどこまで重いお皿(建物)に耐えられるか調べる方法は圧密試験です。ただし、標準貫入試験→乱さない試料の採取→室内試験の手順で行い、とても費用がかかることと、そのため調査箇所を多く取れないので地盤のバランスの良し悪しを確認するには向いていない、ということがあります。どんなものでもそうですが、試験もメリット・デメリットがあり万能なものはない、ということです。

ということで、

 

特に関東ローム層は、尖ったものには弱いがベタッと押されることには強い。

 

とイメージしておくといいかもしれません。

 

二番目の「乱されていないことを確認する」はとても重要です。

何しろ、施行令93条が言っている地盤の地耐力は「乱されていない地盤」であることが前提だからです。これはローム層に限らず、どんな土、岩盤でもそうです。

 

では逆に「乱されている」とはどういうことでしょうか。

一番分かりやすいのは、人の手が加わっていることです。

(注:他のパターンは現場での話の時に説明します)

 

よくある「乱されている例」は、

・深さ3mの地下室があった

・ウドを栽培するための室(ムロ)があった

・畑利用していて深さ1m以上天地返ししていた

・砂鉄を取るための採掘場で地山をほぐしたあと埋め戻していた

などです。どれも人の手が加わっていますよね。

 

なぜ乱すとだめ(地盤工学的に)なのか。

特に関東ローム層が乱されるとだめな理由を述べます。

 

ご存知の方は多いと思いますが、関東ロームは富士山・箱根山浅間山榛名山などからもたらされた火山灰・軽石・岩滓などが堆積・風化したものです。

これらによって形成されるロームの構造は「蜂の巣構造」です。

f:id:jibanjyuku:20190416114238p:plain

土の骨格構造の模式図(土質工学会 土のはなしⅠより)

この図を見ると分かりますが、ローム層の土は土粒子がアーチを形成し更にアーチ同士で繋がっています。外力はこのアーチの骨格を通じて伝達されるわけですが、アーチ構造は圧縮にとても強いので強度を発現できる、というわけです。アーチ橋が強いのと同じ原理ですね。

 

つまり、関東ロームアーチが保たれているからこその強度なのです。

 

このアーチが崩れてしまうと外力を効率的に伝えることが出来ない状態となり、強度が一気に低下してしまうのです。

f:id:jibanjyuku:20190416115621p:plain

ローム地盤内での各種試験の模式図(蜂谷菜穂子「関東ロームの工学的特性について」)

尖ったものに対する抵抗力が小さいのもこういう理由です。

 

また、ロームの土粒子は保水力があるため含水比がとても高い(含水比80%~150%前後)のですが、これも一度乱されると強度が低下する要因になっています。どういう状態を引き起こすかというと、転圧締固めが不能になってしまうのです。よく「うんでしまう」と言われる状態です。

 

この二つの理由から、関東ロームは乱すと地耐力が見込めないと言われます。

 

ちなみにロームとは土壌学上の用語で、粒度組成(どんな粒径の粒(土粒子)がどの割合で含まれているか)の組成具合を示すものです。「火山灰質」を示す言葉ではないんですね。

 

また、ロームに限らず固い地山(人の手が加わっていない地盤)がなぜ固いかというと、何万年・何十万年と自然の力(堆積・圧縮)によって締め固められているからです。これだけの年月をかけて締め固められたものを、人間が同じ圧力で締め固めることは容易ではありません

土木で使用する巨大なローラーならまだしも、戸建て住宅で使うようなランマーなどの転圧機では圧力もたかが知れています。

だから乱されていないことを確認しなければならないのです。

 

崩した土で93条の地耐力を見込む。

ダメ・絶対! です。

 

次回は現場での確認方法・判定結果について書きます。

こちらのFacebookもご覧ください。☟

m.facebook.com