現場で土質確認 関東ローム層が出るか③完結編
前回の②では、今回行う土質確認の目的について書きました。
https://jibanjyuku.hatenablog.com/entry/2019/04/19/200752
簡単にまとめると、
①判定結果はローム層が出ることを理由に補強不要だが、ローム層とは思えない。
(SWS試験の数値が異様に弱く、近隣ボーリングデータのN値と比較してもロームとは思えない)
②人の手が加わっている可能性がある。
(もともとロームが堆積しているはずのところにロームがないとすると、人の手が加わって掘り返されている可能性がある)
③人の手が加わっているなら、何が入っているのか確かめる必要がある。
(人の手が加わっていると、埋め戻しの土の状態によっては不同沈下事故に繋がりかねないので、判定の妥当性と補強工法の選択のためにも土の状態を確認する必要がある)
ということでした。関東ローム層が確認できなければ判定結果が変わる可能性がある、という点も重要ポイントです。
それを踏まえて、今回は現場での手順・判定・地盤調査の総合結果について書きます。
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現場でやることはただひとつ、「土を見て関東ローム層の有無を確認する」だけです。
土質確認のために現場でやることは、土そのものを取り出すか、地盤の断面を見られるように深い穴を掘る、です。土を取り出すというとボーリング調査をイメージする方が多いと思いますが、戸建て住宅の検討で土を取り出す方法はいろいろあります。
土の採取方法の紹介は下記の記事を参考にしてください(^^)
https://jibanjyuku.hatenablog.com/entry/2019/05/31/143029
(最後、一回でまとまらなかった・・・)
というわけで(採取方法の紹介の記事を読んでもらったこと前提で進んでいます)、土質確認をする上で一番シンプル・確実なのがこの方法、
「重機で地面を掘り起こし、地盤の断面を目視する」です。
今回の現場ではこの方法で土質確認をしました!
この方法で何がいいかと言うと、地層の境目を目視できることです。早速、断面を見ていきます。
まず結果として、関東ローム層はありませんでした。関東ローム層はよく「赤土」と言われるように、特徴的な赤茶色をしていて一目で分かります。しかし、この断面の色は暗褐色と呼ばれる色で、赤茶色はどこにも見当たりません。更に、地表面から水位(灰色の水面)の少し上までいろんな色が不均一(マーブル状)に混じっているのが分かると思います。自然に水平堆積しているなら、ありえない断面です。これは「盛土」です。人の手が加わっています。
その一方、水面のすぐ上に黄色い層が一直線に揃っているように見えます。ロームはありませんでしたが、乱されていないと思われる層が見えてきました。黄色い層が出てくる深度を測ってみると地表面から約1.5mの深さでした。
もう一箇所の断面を見てみます。
こちらも地表面からある深さまではいろんな色が不均一に混じっています。ですが、やはり真横に一直線に揃っている層、つまり乱されていないと思われる層が出てきました。その境目付近にオレンジの線を引きました。「いやまだマーブル状だよ」と思われるかもしれませんが、そう見えるのは重機のバケットの爪が上の土を引っ張ってしまったものが付着しているだけです。そうやって見ると、オレンジのラインの上部にある色の土が引っかかれたように下の黄色い層に続いてかすれているのが分かると思います。・・・これを見分けるのは、現場を見慣れていないと少し難しいかなと思います(^^;)
オレンジのラインの深さを測ってみると、こちらもだいたい1.5mの深さでした。
ということで、少なくとも地表面からー1.5mの深さまでは、ローム層ではなく人の手が加わった盛土であることが判明しました。
この段階で、「関東ローム層が分布する地域だから地盤補強はいらない」という判定が成り立たないことになります。
実はもっと分かりやすい判別材料もありました。ポカリスエットのラベルが埋まっていたのです。関東ローム層に限らず自然の地盤は土が何万年も堆積・圧縮されてできた層です。人工物が埋まっていることが確認できた段階で乱された層と決定です。
あとは人の手が加わった層がどの深さまで続いているのかを確認します。
今のは色の混ざりで乱されていると判断しましたが、ブロックを形成できているかどうかもチェックポイントです。今回の計画地は台地で洪積地盤のはずなので、ブロックが形成できていると乱されていない自然体積した地盤と判断することができます。
この方法で1.5mの深さから見られる黄色い層が本当に乱されていないかどうかを確認します。
こちらの写真は、重機で掘り出したものです。左は様々な色が入り乱れ、更に塊を形成できていません。右は写真中央の大きな塊は色が均一な黄色(1.5m以深で見られた黄色の層と同じ色)です。大きな塊が形成されていることが確認できました。これによって、1.5m付近の深さに見られる黄色い層は、やはり乱されていない層ということがわかりました。
次は手に取って確認した写真です。左の写真はボロボロでブロックを形成できていません。水分もなくパサついていました。中央はブロックと乱されているところの境目です。ブロックが形成されているものの一面に黒土が見えます。色の違い、ここが境目です。右はブロックが形成されている状態です。黒い粒は土層の中で炭化したもので、乱されたものではありません。そして、この黄色い乱されていない層は「火山灰質粘性土」つまり「凝灰質土」と判定されました(火山灰質粘性土についてはまた別の機会に説明します)。
あと、写真がうまく取れていなかったのですが、実は盛土の層と火山灰質粘性土の層の間にきれいな(生き生きとした)草の芽がいくつか見られたことも決定打でした。敷地履歴を確認すると芝生を栽培していたようです。芝生を栽培し、土と一緒に切り出して売る、ということを繰り返していたとのことでした。
これで、1.5mの深さまで人の手が加わっていた理由も判明しました。
ということで、今回の土質確認で以下のことがわかりました。
1)地表面から-1.5mまでは盛土(ロームはなかった)
2)1.5m以深は火山灰質粘性土(乱されているのは1.5mまで)
これから導き出されることは、
「SWS試験で表層からGL-1.5m付近で見られる軟弱な数値の自沈層は、土質確認により盛土であることが確認できたため、地盤補強が必要」ということです。
私たちは予測できていましたが、やはり相談者さんにとってはがっかりしたことと思います。ですが、もうひとつの確認では最悪の事態にはなっていなかったことを確認できました。
もうひとつの確認目的である、「ローム層でなかったとしたら土質は何か」です。
もし大量のゴミ・瓦礫や腐植土が存在していたら、補強工法の選定や設計に大きな影響を及ぼします。
1)ゴミが入っていたらすべて取り除き新しい土を入れた上で地盤改良をする。
2)ゴミが取り切れないなら小口径鋼管杭を支持層まで入れる。
3)腐植土が出たら小口径鋼管杭か対応できる認定工法を選択する、または柱状改良をするなら腐植土対応セメントを使う・添加量を上げる。
など。また、地盤状態によっては選択することすらできない工法もあります(不適合地盤という、やってはいけない地盤状態というものが各工法にはあります)。
ですが、今回は大量のゴミ・瓦礫はなく(少量は混じっていましたが施工を妨げるものや量ではなかったので)、腐植土も分布していませんでしたので、予定通りの補強工法が使えることが分かりました。
もし土を見ていなかったら、ロームとは思えない軟弱な数値を目にして
「変なゴミが入っていたらどうしよう」
「腐植土だったらどうしよう」
ということで、安全側で地盤補強をするために過剰な補強計画になっていたかもしれません。
もう一度まとめますが
①関東ロームはなかったので地盤補強が必要。
②盛土だったが変な土は見られなかったので予定通りの補強工法が使える。
ということが今回の土質確認の成果でした。
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土質確認の作業としては単純に「土を見る・判別する」ですが、
1)判別に求められる高い正確性
2)導き出される判定結果の利用範囲の広さ
3)なにより実際に土を見ることで得られる確実性と安心感
についてお判りいただけたでしょうか。
間違っても「ロームって言いきればいいんでしょ!」などと言って安直に土質を決定してはいけません。また、せっかく土質が判別したにも関わらず土の特性を知らないがためにうまく活用できなかったとしたら非常に残念です。
大事なことは、何のためにその調査をするのか目的をはっきりさせ、それに沿った調査方法を選ぶことです。
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