宅地の地盤改良工事(地盤補強工事)について ーダメな工法はあるの?ー
宅地地盤の専門家です、というとよく聞かれるのが
「ダメな(改良)工法ってなんですか?!」
です。
たぶん「●●工法はダメです」「▲▲工法は最悪です」「◆◆工法は選んじゃだめです」という答えを期待されているのだろうと思います。が、私の答えはいつも決まっています。
「ダメな工法はありません。ダメなのは採用(選択)の仕方です!!」
宅地の地盤補強工法に万能なものはありません、ともよく言います。今回はそこに触れます。
その前に・・・よく聞く「地盤改良」と「地盤補強」ですが、このふたつは同じ意味ではありません。
地盤補強工事は「住宅が沈下しないことを目的に行われる工事のこと」で、地盤改良工事はその中の一種です。地盤改良工事を簡単にイメージで言うと、セメントなどを土と混ぜて地盤を強くする工事のことです。表層改良や柱状改良は地盤改良工事と言いますが、小口径鋼管杭は土と混ぜて地盤を強くしているわけではないので改良工事とは言いません。
さて、まず「地盤補強に万能なものはない」について説明していきます。
通常、鉄骨造やRC造の大きく重い建物を支えるためには基本的に非常に固い層まで杭を打ち込み、その反力で建物を支えます。基礎に杭を飲み込ませる「杭基礎」と呼ばれるものです。
しかし、住宅はそのような大規模建築物と比べれば重さは軽い(住宅に「軽い」と表現するのは嫌いですが)ので、必ずしも杭を打ち込み反力で支える必要はありません。比較的軽い木造住宅を支えられるように少しだけ地盤を強くしてあげればよい、というイメージです。それが地盤補強です。「適宜深度まで補強することで十分」という考え方です。
地盤を少し強くしてあげることが目的なので、強くする方法は様々です。ある程度固い層まで補強する、たくさん杭(補強体)を入れて地盤の密度を高める、土の代わりに軽いものを入れて軟弱地盤への負担を軽くする、など。本当に様々ですが、結局「どの深度までどのような方法で補強するか」が各工法のテーマ、のようなものです。
そのため、目的も方法もシンプルな杭(非常に固い層まで杭を打ち込む)と違い、地盤補強は「適宜深度まで補強」が目的で方法が複数あるがゆえに、どの補強工法にも「向く地盤・向かない地盤」が存在します。
性能証明や大臣認定を取得している地盤補強工法はしかるべき機関で認められた工法ですので、「向く地盤」で施工することは何の問題もありません(性能証明・大臣認定を取得しているか要確認)。向く地盤のことを「適合地盤」と呼びます。
そして、向かない地盤のことを「不適合地盤」と呼びます。
例えば、セメントと土を混ぜる柱状改良工法は腐植土に注意(対応セメントを使う・添加量を上げる・採用しない、などの対策が必要)、傾斜地盤や擁壁宅地はシートや発泡スチロールなどの置換工法は厳禁、砕石工法は新しい盛土や腐植土が出る地盤は使えない(腐植土が不適合地盤の工法は結構あります)、あとは工法によって補強深度の限界がある、などです。
そして、「不適合地盤」であるにもかかわらず採用すると、補強体(改良体)が性能を発揮できず、補強体(改良体)ごと住宅が沈下します。
みなさんが思う「ダメな工法」とは、この「不適合地盤で採用され、沈下事故を起こした工法」、そしてその例があまりにも多い工法のことです。
しかし、それは工法が悪いのではないのです。不適合地盤で採用されたことが悪いのです。
これが「ダメな採用(選択)の仕方」の理由です。
不適合地盤かどうか、プロである地盤会社ならば判断がつくはずです。一般的で低コストの工法(例えば柱状改良)が不適合である場合は適合する工法(例えば小口径鋼管杭や適合する認定工法)を提案してきます。
その一方、判断できない地盤会社もいます。地盤や土を見分け、危険性を判断できない地盤会社はプロではありません。
しかし、地盤会社は危険性を見分けられていても不適合な工法が選ばれてしまう現実があります。
事業者が、いずれの地盤補強工法にも不適合地盤が存在することを知らずに(あるいは知っていても)見積金額だけで工法を選んでしまう場合、です。
プロでない地盤会社(地盤会社と呼びたくないですが便宜上・・)は金額だけで選ばれることを知っていて、危険性は二の次で、とにかく受注するために適合・不適合は関係なく安い工法を提案してきます。
それに騙されてはいけません。
「補強工法のダメな採用(選択)」をしないために、
①地盤補強工法には「向く地盤・向かない地盤」がある。
②金額ではなく、その地盤に向く補強工法を選択する。
ということを覚えておいて下さい。
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