日々のあれこれ時々、地盤塾。

地盤塾主宰者の千葉由美子が、日々の中で良いと思ったことや気付いたこと、地盤塾の様子などを綴っています。どんなことに気を留めて、どんなことを考えているのか、知ってもらえたら嬉しいです。

住宅のトラブル相談 年間件数と不具合の傾向

 いま新しい講座用の資料を作成中で、いろいろな情報を拾っています。その中で一部を紹介です。「公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター」さんの資料です。センターが一年間で受けた相談件数やトラブルの内容について知ることができるものです。
 
 こちらは住宅のトラブル相談が年間どれくらいあるか、という資料です。

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トラブルに関する相談件数の推移
 2009年以降、トラブル相談は急激に増えています。住宅瑕疵担保履行法がスタートした年ですね。でも、その前年からじわじわ増えてきてる印象です。
 家の不具合は、竣工後1年から3年の間に出現することが多いようです。それを考えると、2005年あたり以降に建てられた建物のトラブル相談が増えている、ということになりそうです。
2005年あたりは、いわゆる姉歯事件が世間を震撼させた頃ですよね。この事件によって、ユーザーが家の不具合に敏感になったのかもしれません。
 
 では、必要以上に敏感になっていてとりあえず相談しただけで、実際不具合なかったんじゃないか?と思いたいところで、こちらのグラフです。2017年度に受けた相談件数の内、不具合の有無をグラフ化されています。

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不具合の有無(新築等相談)

 残念なことに、相談件数の約80%で不具合が見つかりました。件数にして約1万件。相当な数です。今度は、どんな不具合があったのか、不具合の事象を見てみます。

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不具合事象と主な不具合部位


 ひび割れが一番多く、次いで雨漏り。三番目の性能不足は、お施主様にとっては詐欺のようにも感じられるのではないでしょうか。

 

 ところで。

 私の専門は宅地地盤です。今回、これらの資料を紹介した理由に「地盤が原因と思われる不具合はどれくらいあるのか知ってもらう」という目的があります。そこで、再度「不具合事象と主な不具合部位」の表を見てもらいたいです。

 ぱっとみて地盤が原因と思われるものは「沈下」ですよね。割合は2%、件数は159件。けっこうありますよね。さらに見ていくと、怪しいのは「傾斜」です。事象が見られる部位は床。床の不陸、施工の瑕疵ということもあるかもしれませんが、「建具がしまらない」などの報告で原因調査をすると、地盤が原因で家が不同沈下を起こしたことが起因となっていることが多いです。こちらの割合は4.7%、件数は363件。他はどうでしょうか?

 

 実は、割合が一番多い「ひび割れ」にも地盤が原因である不具合が潜んでいると考えられます。

 

 事象が見られる部位を見ると、外壁の他に基礎にも見られているとなっています。基礎も施工の瑕疵、ということもあると思います。また、経年劣化については、不具合の発覚が竣工後1年から3年が多いとすれば、経年劣化はありえません。「建具がしまらない」「傾いているようだ」などの報告を受け、地盤が原因で変形傾斜を起こしている住宅には基礎に亀裂が見られることが多くあります。これは恐ろしいことですよね。基礎が割れていると一部に負荷がかかり、建物の構造にも大きな影響を及ぼしかねません。

 21.6%、1676件すべてが地盤が影響ではないはずなので、本来はその細かい内訳も知りたいところではありますが。

 

 しかし、ではその内訳が少なければ良いのか?違いますよね。

 

 実際に、年間でこれだけの事故が起きているということは、きちんとした検討・判断がされていない物件がある、ということです。更に言うと、実は地盤の事故の原因は毎年似たようなものなのです。早々新しい原因の沈下事故は起きません。沈下事故を起こしやすいパターンがあるのです。そのパターンがあるのに毎年同じような原因の事故が起こるのは、きちんとした判断がされていないと言い切っても過言ではありません。

 そして、きちんと検討・判断がされないために、これだけの事故が起きているのです。

 地盤だけではありません。上部構造・設備・性能にも不具合事象がこれだけ起きています。これは一団体が相談を受けた件数なので、実際の不具合はもっと起きていると思われます。事故が起きるからやりましょう、というのはネガティブな考え方ですね。

 

ユーザーに安全で快適な住宅を提供するために、

地盤・構造・設備・性能、きちんと検討していきましょう!